京都大学 複合原子力科学研究所
准教授 教授 藤川 陽子(ふじかわ ようこ)様
- 第1回:自己紹介
- 京都大学の藤川陽子です。
京都大学工学研究科衛生工学専攻(現在の都市環境工学専攻)の修士課程を終了後、現在の職場(改称前は、原子炉実験所)に奉職し、現在に至っています。
もともとは高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全評価の研究をしていましたが、その際に得た地層中物質移行の数理モデル化やトレーサー試験、機器分析の技術を生かして、土壌浸透水浄化や野外環境調査に着手。その後、様々な場面での環境浄化技術の開発を手がけるようになりました。
現在力を入れているのは、ウクライナのChernobyl原発周辺の地下水汚染問題と、東北地方の廃棄物埋立地の浸出水評価です。
特に最近は大量データの処理において、人間が教師なし学習のシステムを援用して判断を下すシステムの開発に取り組んでいるところです。 - 第2回:土壌浸透技術を用いた畜産排水の浄化と家畜排泄物中エストロゲン
- ダム湖に近隣農家の養豚場の排水が流れ込む問題に対応する技術開発に取り組みました。
当時、下水道未整備の山間地でよく起こった問題でした。
当時は琵琶湖に流れ込む河川水の直接浄化技術としての土壌浸透の研究をしていたのですが、この研究の発展形として廃棄物素材を団粒化した土壌浸透ろ材を開発していたところでした。
実際のダム湖のそばでパイロット試験を行い、水中のリンと着色性の腐植質有機物の除去を高速(といっても数m/dの線速度、それでも土壌浸透法としては高速なのです)通水条件で除去できました。
この時の使用済み浸透ろ材は、リンなどの肥料成分が含まれており、職場に持ち帰ったところ、畑を趣味とする職員の方たちが使ってくださいました。
土壌浸透の場合、使用後のろ材が廃棄物にならずに有効利用できる点も強みであると思いました。
このとき、並行して乳牛などの家畜排せつ物の肥料としての利用や汚水処理後の排水に関連し、排せつ物に多いエストロゲンを環境に放出することで環境ホルモン作用が問題になるのではと考え研究を行いました。
畜産業は我々の食生活を支える重要な産業ですが、排せつ物処理等に係る畜産業の環境負荷も小さくないようです。 - 第3回:ベトナムのヒ素、鉄、アンモニア含有地下水と鉄バクテリア法、アナモックス法による水処理
- ベトナムでは大河の沖積平野沿いに地質起源のヒ素と鉄、時にはアンモニアも含有する地下水を産します。
なお同様の問題は、インド、バングラデシュ、ネパールなどにも存在します。
当初、ヒ素、鉄、マンガン、アンモニア含有地下水を原水としている日本の浄水場で、鉄バクテリア生物ろ過法という手法での4成分同時除去のパイロット試験を開始しました。
一定の成果が上がったので、ベトナムのハノイ近郊の農村の幼稚園で鉄バクテリア生物ろ過法のパイロット試験も開始した次第です。
当時のベトナムは農村部に行けば上水道、下水道、ごみ収集等の全ての点で課題がありました。
なおこの鉄バクテリア法は砂のろ層上に繁殖する鉄バクテリアが生成する水酸化鉄に水中のヒ素やマンガンが吸着あるいは酸化作用で濃縮され逆洗時に汚泥として排出される仕組みです。
日越でのパイロット試験の結果、ベトナム農村水道の実施設として鉄バクテリア法の施設を設置しました。
アナモックス法によるベトナム地下水中アンモニア除去も実施し、成果を国際アナモックスシンポジウムで発表しました。 - 第4回:東日本大震災と下水汚泥等の放射性セシウム問題
- 東日本大震災の下で発生した福島第一原子力発電所事故の結果、放射性セシウム等による環境汚染が広く起こりましたが、一般及び産業廃棄物中にも広く放射性セシウムが含まれる事態となりました。
元来これらの廃棄物は焼却あるいは溶融などの減容後、廃棄物処分場に搬出され埋め立てられていたのが、市民の反対もあり処分が出来ずに下水処理場や焼却工場に廃棄物が蓄積する事態になったのです。
処理場周辺では搬出できない汚泥による臭気が問題になる等、副次的な問題も起こりました。
「指定廃棄物」という枠組みに入れられた放射性セシウム含有廃棄物の最終処分は現在でも福島県のみで進行し、関東等の都県では処分が進みませんでした。
そこで我々は、廃棄物焼却灰から水あるいは酸性の溶媒で放射性セシウム等を抽出し、その液中のセシウムについてフェロシアン化物共沈法という手法で選択的に沈殿を形成させ、セシウムを微量の沈殿物として回収すると方法を開発してきています。
この方法によれば放射性セシウムを含む廃棄物を大幅に減容できます。